外岡秀俊 3.11後の世界

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<<   作成日時 : 2011/09/17 15:43   >>

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 2011年9月17日(土)記

 福島県いわき市江畑町にある「陶吉郎窯」を訪ねた。

 ここは、福島県浪江町で大堀相馬焼を受け継いできた陶芸家の近藤学さん(57)が、再起を期して開いた新しい窯である。

 大堀相馬焼は、三百年以上の歴史を誇る相馬藩の古美術陶芸である。

 旗本6男で楽焼を修行した平吉が近藤家の祖で、会津藩に召抱えられた。その息子の二代陶吉郎が相馬藩に招かれて大堀に窯をひらき、それ以前に地元「七人衆」が始めた相馬焼に磨きをかけた。相馬焼は参勤交代の献上品としても珍重された名品だった。

 分家に生まれた近藤さんは、父を継ぐ二代目だが、本家から数えると九代目にあたる。大学4年を野球で過ごし、一時はプロ入りを目指したが、卒業と同時に郷里に帰り、家業を継ぐ決心をした。

 相馬焼は、戦後、アメリカでの人気が高く、8割は輸出用として生産された。だがドルショックによって輸出は総崩れとなり、数件の問屋が仕切っていた生産制度は終わりを迎えた。

 これからは製造だけでなく、販売や営業も手がけなければならない。近藤さんは全国を駆け回り、各地の窯元や陶芸家を訪ねた。大堀相馬焼には、たしかに歴史と伝統がある。しかし、これまでは狭い技法に縛られ、感覚や感性を押し広げる努力を惜しんではいなかったか。

 近藤さんは毎年日展への出品を目指し、次々に新たな技法に挑戦した。日展への出展は17回に上る。

 大堀の土は良質な陶土だ。焼き後が白っぽく、こまやかで、繊細な技法が可能だ。絵の具の代わりに粘土をはめ込む象嵌の技法を開発し、羽根をひろげた雄渾なシマフクロウや、可憐なスズメの群れを描いた大作などを、次々と生み出して陶芸界をうならせた。

 31歳の息子さんも陶芸の道を選び、すべては順調にいくかのように思えた。

 3月11日の震災で、棚に並べていた乾燥中の作品はことごとく壊れ、登り窯にも罅が入った。

 JR浪江駅近くの陶吉郎窯は、福島第一原発から10キロぎりぎりの距離にある。12日朝、10キロ圏内からの避難を命じられ、さらに夕方、20キロ圏外への避難指示も出たため、眼鏡や財布、携帯電話を持って福島市に向かった。

 避難は2.3日のつもりだった。だが非情にも、北西に向かう風は、陶吉郎窯から近藤さんの避難経路にかけて、
最も深刻な放射能汚染のあとを残した。罅割れた登り窯は崩れ落ちた。

 お得意の紹介でいわき市の住宅に仮住まいをしたが、陶芸への意欲が沸々とたぎって心が鎮まらない。

 地域を除染し、いずれは帰るという前提で物事は進んでいるが、それでいいのだろうか。陶芸家の仲間と話すと、再開はあきらめる、という人がいる。
 陶芸に必要な窯を新たにつくり、工場を設けるとする。すぐ収入があれば別だが、作品がすぐに売れるとは限らない。もともと後継者難で、細々と家業を継いできた人もいる。心の片隅に、いずれ戻れるという期待があれば、新天地で再開しようという気になれないのも当然だろう。

 だが、「自分の作品を作る」という闘志がむくむくと湧いてきた。

 いわき市の近所を歩き回り、ようやく今の家を見つけた。去年の秋まで、建設会社の物件を借りて蕎麦屋を開いていたという日本家屋だ。手入れの行き届いた庭、苔むした巨岩。一見質素だが、内装に贅を尽くした家は、理想的だった。窯をすえ、工場や売店を開いても十分な広さがある。

 待望の窯は20日に入る。日展の搬入は10月の7、8日。大きい作品を2度焼けば、それがぎりぎりのタイミングだ。
 これまで、商売よりは、「自分の作品をつくる」ことを前提に、陶芸一途に打ち込んできた。「今年はもう無理なんだべ」という気弱さに、引き摺られそうな時期もあった。しかし、ここで負けることはできない。震災や原発事故があっても、つくるという意思さえあれば、たたかえる。

 私も、近藤さんに励まされる思いがした。 




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