2011年9月16日(金)記 9月13日午後、福島県いわき市にある、いわき明星大学学生会館二階で、楢葉町議会の原子力常任委員会が開かれた。 楢葉町議会は、昨年、原子力常任委員会を置いた。これまで、事故やトラブルがあった場合には、特別委員会で扱ってきたが、これを常設のものとした。ちなみに、福島県議会にも常任の原子力委員会はなく、議決権のない全員協議会で処理するのがもっぱらである。原発立地の町議会で、常任委員会を置くのはきわめて異例といっていい。今回の震災では、これまでは特別委員会で議論してきたが、この日は震災後初の常任委員会となった。 冒頭、安島(あじま)琢郎委員長(71)が挨拶をした。 「楢葉町は、昭和57年の福島第二原発1号機の運転開始以来29年にわたって国のエネルギー政策としての原発運転に協力してきたが、それは常に安全確保を最優先に、異常事態が発生した場合でも「止める」、「冷やす」、「閉じこめる」という機能が働き、外部に大量の放射性物質を放出する事故は絶対起きないと説明されてきたからである」 「しかし、今回の世界に類を見ない、4プラント同時の福島第一原発の炉心溶融や水素爆発によって、その主張は根底から崩れた。楢葉町の一部は60万ベクレル/u以上、5000ベクレル/s以上汚染され、国際的にみて禁止居住禁止区域や耕作禁止区域に該当する被害を被っている」 「このことは、東京電力を初め、産・学・官で構築してきた原子力村の安全神話を前提として、過去のデータや良心的な学者、専門家の警告を無視し、30年以上経過した老朽化プラントを運転継続してきたからに他ならない。本日は、忌憚のない反省の弁と当面の安全対策についてお尋ねしたいので、包み隠さず、委員各位の疑問に答えて頂きたい」 質問の第一はシビア・アクシデント、今回のような過酷事故の訓練をしてきたのか、という点だった。 東電側の答えは、「していなかった」というものだった。原発では6直3交代制をとっており、日勤1班、夜勤3班態勢で運転し、2班はシュミレーターなどでの訓練や研修を受けている。だが、シビア・アクシデントについての特別の訓練はしていなかった、という。これ自体、驚くべきことで、いかに「安全神話」が日常化し、いざというときの場合に備えた態勢に欠けていたというべきだろう。 第二の質問は、「原子炉建屋破壊防止のためのブローアウトパネルを複数設け、負圧で作動すべきと思うが、どうか」というものだ。 東電側の答えは、「2号機では働いたが、他のプラントで作動したうえで爆発したか、作動せずに爆発をしたのかわからない」という答えだった。 第三の質問は、「外部電源やディーゼル発電機を強化しても、電源盤が地下に設置しているのでは意味がない。設計ミスではないのか」というものだった。 東電側の回答は、「土嚢など、津波対策をきちんとするしかない」というものだ。 これには説明が必要だろう。今回は、全電源停止による冷却機能の不全が最大の事故原因だった。同じ場所に非常用電源を置いてあったために、津波による浸水でバックアップができなくなった。だから非常用電源を違う場所に設置し、電源車を配備するなどの応急措置がとられた。しかし安島委員長によると、電気系統を操作する電源盤が地下で浸水すれば、違う電源を供給したとしても、通常操作はできなくなる。だから「設計ミスでは」と尋ねたのである。 では設計変更をすればいいのではないか。素人考えではそう単純に思う。しかし、これは難しいのだという。電気系統は原子炉や冷却装置だけでなく、燃料棒プールの冷却装置にもつながっている。今回の事故で、プールのクレーンや燃料交換機も壊れた。プールに燃料棒が入った状態では、改造工事は難しいのだという。 委員長はほかにも多くの質問をした。 「老朽化プラントの60年運転計画は反省して取りやめ、当初予定の40年で廃炉にすべきではないか」 「原発を『止める』といっても、崩壊熱は消すことができない。『冷やす』といっても、地震、津波、水源、電源、汚染拡大などを考慮すれば信頼性はきわめて低い。『閉じこめる』といっても、格納容器貫通部の伸縮継手などはきわめて破損しやすい。原発は止める、冷やす、閉じこめるという機能を保持していないのではないか」 質問をみてもお分かりのように、安島委員長の指摘はいずれも原発の核心にかかわる深い問題のありかを示している。 安島氏は大学で工学を学んだあと、東京電力やその関連会社に35年在籍したプロであり、4期にわたって町議をつとめながら、真摯に原発と向き合ってきた。たんなる責任追及ではなく、専門家として、住民のために、どうにかしてこの危機を乗り切り、事故の再発を防ぎたいと願っている方だ。 安島氏の今の懸念は二つの問題にかかわっている。 第一は、地下への汚染水の浸透だ。東電は巨大な費用をかけて遮水壁を建設するというが、それは、すでに膨大な高放射性の汚染水が地下に拡散しているからではないか。陸地のセシウムだけでなく、地下水を通じた海洋汚染の拡大が予想されるのではないか。 8月3日の特別委員会で東電は、「水位の急激な低下などの事象が確認されていないことから、汚染水が地中へ大量に放出していることはないと考えられますが、地下水を通じた海洋汚染拡大に対して万全を期すことを目的に、護岸部の止水強化も念頭において、地下の遮蔽壁の基本設計にかかっております」と答えている。 第二の危惧は、除染の態勢だ。政府は住民による自主除染を勧めているかにみえるが、高圧洗浄機などで除染をしても、放射性物質は地点が移動するだけで、なくなるわけではない。焼却すれば大気に放出されるだけだし、灰にも残っている。そもそも山林や野原、川原、田畑などでは除染できないし、通学路や学校を除染しても、他の地域を子どもが通れば、汚染の危機にさらされる。 低レベル放射性物質の厳格な管理と除去に長年携わってきた安島氏は、そのレベルを遥かに超える広大な汚染土壌を、除染すればすぐにも帰れるかのように軽々しく論じることが、きわめて無責任に思える。 安島氏の自宅は、福島第二原発から5キロの地点にあった。 震災の当日、役場の控え室にいた安島氏は、すぐ自宅に戻り、家を点検した。瓦が落ち、リビングの大ガラスが割れていたほかは、無事だった。高台に上って、夕方まで、迫る大津波を見ていた。夜にかけ、第二原発が冷温停止したと聞いて、ほっとした。第一原発のことは、すっかり忘れていた。 翌日、避難命令。いわきの避難所に入り、ようやく第一原発の事故の概要を知った。 いまは、いわきの借り上げ住宅に、奥さんと二人で暮らしている。 写真は安島琢郎委員長 |
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