2011年8月5日(金)記 東電の「トラブル隠し」発覚を機に発足した「福島県原子力発電所所在町情報会議」は2003年2月6日、第1回会合を開いた。 再発防止対策として「4つの約束」を公表したが、ここではさらに信頼回復、情報公開徹底に向けて具体策を打ち出した。 〔信頼回復に向けた取り組み〕 1 全戸訪問、行政区、ブロック単位での説明など、広報公聴方法の見直し 2 双方向のコミュニケーションが円滑に行なえるよう社内の体制、要員配置などの見直しをする 3 人事異動などがあっても地域の声が伝承できるよう、データベースを構築 〔情報公開拡大〕 1 報告義務のあるデータだけでなく、日常保守の軽微なトラブル、定期検査の進捗状況、結果などのデータも報告する 2 国、自治体、マスコミに対してだけでなく、地域の皆さま、原発で働く協力企業の社員にも情報を公開する 3 国、自治体への通報、マスコミ発表だけでなく、ホームページ、メールやファックスなどで配信し、社外の目も導入する。 7月28日の第2回会合では、原子力安全・保安院から原発の検査体制や、定期検査について詳細な説明があった。福島原発には1999年12月に「原子力保安検査官」制度が導入され、 福島第一原発保安検査官事務所 10人(うち検査官8人) 福島第二原発保安検査官事務所 6人 (うち検査官5人) で業務を続けてきた。しかし、今度の「トラブル隠し」以降、 1 通常業務の厳格な実施 フリーアクセス権の確保と執行 2 保安院と連携した立ち入り検査、トラブルの現場確認、立会いを実施する 3 地元自治体などへの情報提供、状況説明を行なう ことなどを明らかにした。 情報会議ではその後年間、ほぼ5回にわたって開かれたが、2年ほどは順調に推移した。 「一年前に比べると東電はものすごく変わったと思うし、意識も変わったと思う」(第6回会合で、楢葉町・渡辺征委員)、「この情報会議も2年を経過し、委員の皆様から発電所との共生と地域の繁栄を担う活発なご意見、正に原子力の健全な発展に寄与するすばらしい情報会議だと強く認識しております」(第9回会合で、楢葉町・佐藤賢一副議長)などの声があった。 雰囲気が変わるのは2005年7月29日に開かれた第11回会合のころからである。福島第一、第二原発を視察したあとの情報会議で、この日は原子力安全・保安院から「高経年化対策による国の取り組みについて」という説明がなされた。 「高経年化事象とは、経年劣化事象のうち、30年以上の長期間の運転により顕在化する事象です」 国は、 1 機器・設備の現状を調査・評価し、 2 今後の劣化の進展状況を予測したうえで、 3 現状の保全活動に追加すべき対策を検討史、計画的に実施する という。 これまで30〜40年といわれた原発の耐用年数が60年は大丈夫とわかった、という説明だった。委員から、ただちに疑問の声があがった。 「30年過ぎたものが高経年化という話であるが、60年を想定しているとはどういう考えか。例えば原子炉圧力容器の耐用年数は何年か」(富岡町・安藤正純委員) これに対し、保安院の都築秀明・原子力安全地域広報官が答えた。 「当初30〜40年を想定していたが、現時点においては適切な管理をすれば60年は大丈夫と言われています。コンクリート構造物については耐用年数が60〜100年と言われているが、発電所の中には様々な機器があり、耐用年数はそれぞれ大きく違うため、きちんと管理をして状態を把握した上で使うことが肝要であります」 その説明に対し、楢葉町・渡辺征委員から、こんな要請が出された。 「安全、安心、透明性と3つの柱を前回説明して頂いたが、安全であっても我々は安心できないこともある。今まで40年だったが、調べてみたらあまり使っていなかったから、力を加えなかったから60年は大丈夫と言われても安心はできない。次回の時にこの辺を分かりやすい図解を提出して説明していただければと思います」 2007年11月24日の第12回会合で、保安院の荒川嘉孝・高経年化対策室長から、その説明があった。 「本年8月に高経年化対策検討委員会の報告書がまとまり、30年を一つの目安として高経年化技術評価を行なうことは適切であること、取替えが困難な原子炉圧力容器等を60年使用しても十分な余裕があること等が確認されました」 委員からは次々に質問が出された。 「高経年化問題で建屋以外について30年ごとに対策していくわけだが、建屋の高経年化の年数は何年か。また、そういう年数がどういう結果からでるのかお聞きしたい」(大熊長・松本実委員) これいついて荒川室長が答えた。 「コンクリートのサンプルを使って中性化がどの程度進行しているのか測定し、中性化の程度と残りの中性化していない部分との距離を最小距離で割り、あとどのくらい経てば中性化が鉄筋に至るかという評価をしている。100年以上大丈夫と言ったのはそういう点検に基づいて今回ワーキンググループの委員会の中でコンクリートの専門の先生にもご参加頂き、評価が妥当かどうかご審議頂いたことにより、100年は大丈夫であろうという結論である。ただあくまで評価であって確認していくことが大事である」 だがその後も、福島第一原発6号機で、プラントメーカーによる給水流量計データに偽装があったことが発覚するなど、トラブルは続いた。2006年2月24日の第13回会合では、委員のなかから、「新聞を見るとカラスが鳴かない日はあっても、東京電力のトラブルの記事が載ってない日はない」という皮肉の声があがった。 この会合では、大熊町・根本充春副議長から、「国はもっとしっかりしてほしい」という要望も出た。 「保安院の方は2年で変わるが、私たちは一生住んでいる。そういうことを含めて品質保証の話がでたが、安全保証は国がするもの。そうしていただかないと私たちは原子力発電所、原子力政策に対する安心感・信頼感は起きません。新聞に東京電力のトラブルが出ても保安院は一度も出てこない」 こうした国への要望は、回を追うごとに強くなっていった。 2006年5月26日の第14回会合では、大熊町・木幡仁委員が次のように発言した。 「保安院というものは、東電や東北電力などの事業者を管理監督する立場にあります。監視する要素、取り締まる要素がなくてはならないということだが、そういった立場で電力会社をチェックするのかということに少なからず疑問を持っています。保安院の事務所自体を東電の敷地内の外に置くとか、経済面やいろんな面で独立した環境を整備しなくてはいけないと思っています」 2006年7月31日の第15回会合では、富岡町・安藤正純委員がこう発言した。 「我々は国民として国に頼るしかないと思っています。事故は起きてからでは遅い。予防措置が重要。日航のエンジントラブルの件をTVで見ましたが、メーカーは設計図など詳細資料・データを持っています。事業者が全てを点検するのは不可能であり、最高の技術で点検をお願いしたい」 続いて楢葉町・渡辺征委員もこう発言した。 「車にしても、5年前と今では性能が全く違います。高経年化について、部品を交換していけばよいのか。今後30年のことを考えれば、点検のやり方を考えるより廃炉とし新設がよいのではないでしょうか。30年前の技術と現在の技術は違うため、より良いものを開発し、安全を確保すればよいのではないでしょうか」 ところが2006年11月、またも信頼を揺るがせる不祥事が発覚し、地元の不信感は募った。中国電力で水力発電所のデータを捏造していたことがきっかけで、各電力会社の水力、火力、原発のデータ改ざんが相次いで明るみに出た。11月30日に柏崎刈羽原発で改ざんが発覚した直後、福島では一度は「ない」、と発表したが、12月5日には「あった」という発表に変わった。 いずれも、前回の「トラブル隠し」以前に行なわれた改ざんだったが、2007年2月20日に開かれた第17回会合では、地元委員から失望や批判の声が相次いだ。 「何年か前にデータの改ざんが非常に問題となって、この情報会議が立ち上がったが、加えて、今回のデータ改ざんが起こったことについて、詳細を聞けば聞くほど、それに対する怒りよりもむしろ悲しさが出るというのが率直な感想です」 そう発言した大熊町の木幡仁委員は、続けて経年化の問題に触れ、保安院のあり方についても厳しい視線を向けた。 「今後、情報会議を立ち上げたときにも何回も言われましたが、経年化が進む中で、色々な不都合なデータも多々出てくると思います。人間が作ったものだから工学的な寿命も必ずあるものだし、それに対してどのような姿勢で対処していくのか。自己申告ばかりでなく、体制としてチェックできるようなものをどうやって作り上げていくかが、非常に今後の問題として重要であり、時間をかけて作っていっていただきたいと思っています」 「また、事業者からちょっと外れて、本来なら保安院が、色々な意味で我々住民の安全を守るという立場から、国の検査機関として関与していると思いますが、以前から何回もこの会議の場で前の保安院の都築さんが、ダブルチェックで二重にチェックするから大丈夫だと大見得を切っていましたが、実際にはどんな方法でチェックができるのかということについて、もうちょっと保安院もきちんとした方法なり体制を考え直すべきだと思います。こういった改ざんされた数値を自分自身の力で発見できなかったというのは、検査機関の能力としては、問題だと思っています。そのために作られている組織がそのための機能を果たさないというのだから、非常に問題です」 双葉町の小野善男委員は次のようにいう。 「地元住民は正直な話、うんざりしています。どこの企業でも、改ざんという類のものは若干あると思います。ただし、故意的に改ざんをするだけでなく、警報の回路を切断するなどということは、会社が企業ぐるみで上部から指示を出しているのではないかと思います。(略)前から委員会の中でもいっているように、経済産業省の中に規制(検査)部門と推進部門があります。このような状況の中で改ざんが行なわれていたということは、なんらかの対策が必要だと思います。専門的技術を持っているのは国とか県あるいは企業しかない。地元住民が一番頼るのは国です。経済産業省の中に規制・推進両部門があるのは問題であり、別々にしなければならないと思っています。抜き打ち検査をするとか、常に検査を専門に行なう機関にして、地元住民が安心し、企業にも改ざんがなくなるよう指導する体制を作っていかないと、地元住民の信頼が失われていくと思います」 こうして、高経年化と、保安院のありかたについて不信が高まっていたところに、2007年7月、新潟県中越沖地震が起き、東電の柏崎刈羽原発で事故が起きた。 これ以降については、項を改めたい。 写真は、長年情報会議で司会をつとめた富岡町の元生活環境課長、白土正一さん。情報会議の一部始終を見守ってきた。震災後は郡山市の避難所で暮らしたが、7月から、いわき市に移られた。 |
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