2011年8月4日(木)記 先月、福島県いわき市に避難されている富岡町の自営業、安藤正純さん(56)にお目にかかった。 「テレビ局は、今こそ『朝まで生テレビ』に住民を登場させてほしい。震災後、原発被災者の声は、どこにも取り上げられていない。政府や東電は、一方的に記者会見をやっているが、記者たちは、住民の声を代弁しているだろうか。住民が、政府や東電に直接問いただす場を設けてほしい」 安藤さんは、今年3月まで6年間、「福島県原子力所在町情報会議」の富岡町選出委員をつとめてきた。「こういうときこそ、情報会議を開いて、住民に説明してほしい」と求めているが、再開のメドは立っていない。 最近、原子力・安全・保安院が、国主催のシンポジウムで、電力会社に参加動員を指示するなど、規制機関と推進機関が同じ経産省に属するがゆえの「癒着ぶり」が、次々に明るみに出ている。東電の情報隠蔽体質や、問題先送り体質も、厳しい批判にさらされている。 だが、こうした問題は、地元では長く取り上げられ、問題として指摘されてきたことばかりだ。安藤さんは、そういう。マスコミにもそのやりとりは伝わっていたはずなのに、原発事故が起きるまで、同じことが繰り返された。 「東電が被告とするなら、保安院は弁護士。経産省も文科省も連帯保証人。これでは、住民はだれを信用してよいのか、まったくわからない」 安藤さんの言葉を裏付ける資料が残されている。2003年2月6日から始まった「情報会議」の質疑応答を記録した「お知らせ」である。 「情報会議」は、2002年8月29日に発覚した東電の「トラブル隠し」事件を受けて設立された。 ここで、この事件の概要を振り返っておこう。というのも、この「トラブル隠し」にもかかわらず、東電や保安院の体質がまったく変わらなかったため、事故対策が遅れ、SPEEDIなどの避難情報が公開されなかった可能性が高いと思われるからだ。 保安院はこの日、福島第一・第二原発、新潟県の柏崎刈羽原発で、東京電力が80年代後半から90年代にかけておこなった自主点検の際、原子炉の機器にひび割れなど29件のトラブルがあったのにこれを隠し、修理作業記録も改ざんしていた、と発表した。 記録に不正の疑いがあるのは、シュラウド(炉心隔壁)、蒸気乾燥器など3発電所の29件。ひび割れの検査結果や修理記録、その日付などについてごまかした。 調査のきっかけは、00年7月、旧通産省に寄せられた内部告発文書だった。 通産省は東電に連絡をしたが、東電は「思い当たるところがない」という態度に終始し、その後、社内で本格調査を始めたのは、実に1年10か月後のことだ。 01年11月、告発者が本名を名乗り出ることを了解したため、経産省が原発の保守・点検にあたるGEの関連会社に照会し、このGEIIという会社で社内調査を開始した。その結果、検査データなどに矛盾が生じ、東電に懸念を伝え、ようやく調査が始まった。 3発電所のうち8基の原子炉については、ひび割れなどがある機器がまだ取り換えられたり、十分な修理が行われたりしないままに炉心に残っている疑いがあったため、保安院は安全のための確認を行うことになった。しかし、保安院が東京電力から詳細な資料提出を求めて分析したところ、「ただちに安全性に重大な影響を与える可能性は含まれていないと」とした。 長年にわたってトラブルを隠し、それにあわせて記録を改ざんする。内部告発があったにもかかわらず、これを放置し、GE関連会社の調査によって、はじめて疑惑が明らかになる。地元に対する背信行為というだけでなく、東電の自浄能力、調査能力、政府のチェック機能すら疑わせる出来事だった。 地元福島県で当時知事をしていた佐藤栄佐久氏が激怒したのも当然だった。 知事は、「トラブルを2年間伏せておいて、経済産業省は29日の会見で『安全文化の維持向上』と言っていた。茶番劇をやっているのか。一番安全に関係する県民のことをどう考えているのか」と批判した。 佐藤氏はその前年の2月、プルトニウムをふつうの原発で燃やすプルサーマル計画推進に強い疑問を投げかけた。その後、県で独自に研究者を招き、エネルギー政策の検討会も続けてきた。批判はとどまるところを知らなかった。 「1年数カ月、私どもは原子力政策について真剣に検討してきた。この間に、こういうトラブル隠しがあったとは、とても信じられない。核燃料サイクルについて、もんじゅ事故や臨界事故で考え直す時があったのに(国は)考えてこなかった。今、安全文化に対する意識を先進国の常識のレベルに持っていく時期だ」 「私どもが原子力政策について真剣に検討してきたのに、まだまだこんなことが起こるのが信じられない。細い糸のような信頼関係がぷつんと切れてしまう」 「私が経済産業大臣だったら、(トラブル隠しが)分かった時点で公表する。立地地域の住民の気持ちを考えたらそうするはずだ」。 「2年間も手を打たなかったのに発表する時はいつも『原発は安全です』。こういうやり方は許せない」 東電は9月に入り、荒木浩会長と南直哉社長に加え、平岩外四、那須翔の両相談役、原子力本部長の榎本聰明副社長の5人が辞任する引責人事を発表した。歴代トップ4人を含む首脳の総退陣である。 、「福島県原子力所在町情報会議」は、この前代未聞の不祥事を受けて創設された。これは、福島第一、第二原発立地の双葉、大熊、富岡、楢葉の4町がそれぞれ5人ずつの委員を出し、学識経験者1人、東電からは第一、第二原発所長が出席して発足した。原発について情報開示を徹底し、原発運営について関係機関に提言するのが目的である。その第一回会合で東電側は、「4つの約束」をした。 1 透明性の確保に向けた情報公開を徹底します 2 業務を的確に行なえるよう社員や組織を支援する機能を強化します 3 原子力部門の閉鎖性を打破し、風通しのよい企業風土を作ります 4 企業倫理の遵守を徹底します 東日本大震災が起きるまで、この会議を通して東電はこの「4つの約束」をどこまで果たしたのか。項を改めて、会議の経過を追っていきたい。 写真は安藤正純さん |
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