2011年7月15日(金)記 前回訪ねた郡山市の避難所、「ビッグパレットふくしま」を再訪した。 一時は3000人近くが暮らし、5月末には1000人近くまで減った方々は、今は500人近くにまでなっている。ここでは、原発立地の富岡町と、川内村の人々が避難したが、順次建てられる仮設住宅や、借り上げ住宅、知人宅に身を寄せ、見かけのうえの数字は落ち着いてきたように見える。 しかし、すぐ近くの仮設でも、クーラーは切ったままというお年寄りは少なくない。仮設の賃貸は無料であっても、水道、光熱費は自己負担だし、交通費や食費など出費はかさむ。浜通りと違って、内陸の中通りは暑く、連日30度を越える猛暑が続くが、それでも節約を、と思う方が多いのだという。ビッグパレットには、仮設の抽選にあたらない人もまだ多く残されている。 そのビッグパレットで、一人の医師に会った。双葉郡医師会の会長を務める井坂晶さん(71)だ。 富岡町で開業していた井坂医師は、震災翌日の12日から、町民とともに川内村に避難し、15日以降は、町民と一緒にビッグパレットに避難し、その日から、富岡の他の開業医2人と、避難所の医療を支え続けた。 急性期から慢性期まで、3000人近くの住民を3人で支える。2人が救護所で待ちうけ、1人が巡回する。その体制を何とか維持し続けた。 大災害には、発生から48時間以内に派遣して急性期を支えるDMATの仕組みができており、今回の東日本大震災でも、各地で多くの医師が活躍するのを目にした。しかし、大津波のために、流された人々は助からず、助かった方々は外科的な応急治療よりもむしろ、酸素吸入や高血圧、糖尿病など慢性疾患を抱える患者さんが多かった。 とりわけ福島では、原発周辺で慢性疾患のため入院していた方々が、大勢、とるものもとりあえず、緊急避難することになった。通常の災害医療では、まず考えられない事態だ。この点、岩手や宮城など、他の大津波震災とはまた違った状況がうまれた。 井坂医師はこの点で、今回日本医師会が派遣した災害医療チームJMATの支援が、とりわけありがたかったという。JMATは3月後半に入り、4月後半からは常駐で井坂医師らを支え続けた。なかでも、広島からの医師チームが 熱心に支援を続けてくれた。やはり、原爆の体験が、同じ境遇に置かれた福島の実情をより切実に感じさせたからだろうか。 原爆では、放出エネルギーや熱線、衝撃波が格段に破壊的であるばかりででなく、その地域一帯を汚染し、救援者をも被曝させるという点で、通常兵器とはまったく異なる。今回の原発事故でも、周辺一帯に避難が指示され、救援や救護、消防などが再び周辺に入ることができない状況が続いた。 しかも、事故による避難を想定していなかったため、富岡町から第一次の避難地になった川内村まで、ふだんなら車で20分で着く距離なのに、道路渋滞で逃げ道はなく、長い場合には5、6時間もかかるのが現実だった。 「原発から20キロ〜30キロ圏内では、放射状に道路を整備し、どこにでも逃げやすいような避難路を作っておくべきだった」と井坂医師はいう。 大規模避難を考えていなかったため、避難先でも、まず施設を確保して住民が入居し、それから診療所や介護のニーズに応えるべく、一緒に避難した地元医師がぎりぎりの努力で支えるしかなかった。その間、行政は避難先確保や支援物資の配布などに追われ、とても医療や介護ケアにまで目配りするゆとりはなかった。 だが、慢性期になり、住民が仮設に入って、問題が解決するわけではない。富岡町住民は今後、郡山のほか、大玉村などの仮設住宅に分散することになっている。井坂医師らが要請し、大規模仮設ができる大玉村には仮設診療所ができるが、各地に散り散りになる住民をすべて支えることは無理だ。基本的には、「行った先々の行政にお願いするしかない」のが実情だという。 井坂医師に話をうかがって、思った。 「仮設住宅」は、復興住宅ができるまでの、とりあえずの住居である。しかし、富岡町など原発立地の周辺に住んでいた人々が、いつまでに、どこに「復興住宅」を建てられるのか、見通しはまったく立たない。5年か、10年か、それ以上か。それまで、住民が県内外に借り住まいを余儀なくされるというなら、広域でその人々の暮らし、医療、教育といった根幹をどう支えるのか、システムを構築することができるのは、今をおいてほかにはない。そうでなければ、国は、事故で避難した人々を見捨てることになってしまう。 それは、人災などではなく、「棄民」である。 写真は上から 1 井坂医師 2 ビッグパレットの敷地に立つ富岡町の災害対策本部 3 ビッグパレットでは今も自衛隊が常駐し、支援を続ける |
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