2011年5月10日(火)記 5月7日に上京し、朝日ニュースター放送が午後10時から放送する「ニュースにだまされるな」という番組 に出させていただいた。 この番組は、金子勝・慶應大教授と、作家の中村うさぎさんが司会役で、毎回ゲストを迎えて時の話題 を掘り下げる趣向だという。今回のテーマは、「東日本大震災の復旧・復興はどうあるべきか」。 片山善博・総務大臣、神野直彦・地方財政審議会長、両角和男・東北大教授がゲストだった。 片山氏は99年から鳥取県知事を2期8年つとめ、昨年9月から菅直人内閣の総務大臣になった。 知事時代は、予算編成過程の透明化や、情報公開の推進、事前調整なしの議会審議など新しい県政 に取り組み、当時の浅野史郎・宮城県知事や北川正恭・三重県知事らとともに、「改革派知事」といわれた。 私が注目していたのは、片山さんが知事在任中の2000年10月6日に起きた鳥取県西部地震で、 被災者の全壊家屋再建に、最高300万円の現金を支給したことだった。 阪神大震災では、「自力復興」の原則のもとに、個人財産や住宅への公費投入は見送られた。 被災地で署名運動が高まり、不十分ながら「被災者生活再建支援法」ができたのが1998年。 都道府県が金を拠出し、同額を国が拠出して再建資金にあてる仕組みだ。だが、その支給額 や内容は限られていた。 片山さんは、県が3分の2、市町村が3分の1を拠出することで最高300万円まで支給。 これがきっかけで法改正の動きが強まり、07年に国の制度も法改正されて、「最高300万円」 まで引き上げられた。いわば法改正の筋道をつけた人が、たまたま今回の震災でも、 枢要なポストに就くことになった。 私は、この機会に片山さんに向けて、被災地でうかがった声をお届けしたい、と考えた。 地方行政を熟知し、震災を実地で体験し、地方分権を唱えてこられた片山さんなら、 実情を理解してくださると思った。なお、上京の際、機内で関西学院大学の 災害復興制度研究所が4月25日に発行した「東日本大震災復興へ向けての提言集」を読み、 「対口(たいこう)支援の拡大」など、多くの点で共鳴するところがあった。 私は提言集も踏まえ、そのなかから、賛同する提言もいくつかご紹介したい、と思った。 2時間という制約はあったが、ある程度、被災地からの声をお伝えできたのではないか、と思う。 以下、私の発言 の骨子を、簡単にご紹介したい。 1 震災の規模 これまでの取材の経験からいうと、今回の震災は、その規模において、 阪神大震災よりもむしろ、2008年5月12日に中国・四川省で起きたM(マグニチュード)7.7の 「四川大地震」に近いと思う。 阪神 長さ20キロ、幅1キロの「震災の帯」に被害が集中 M7.3 死者6434人 四川 長さ100キロ、幅30キロの龍門山断層が動く M7,7 死者・行方不明 約87000人 東日本 長さ500キロの沿岸部に被害が広がる M9.0 死者・行方不明 約25000人 そのうえ、今回は2004年12月26日にスマトラ沖で発生したのと同じくらい大規模な津波に襲われ、 さらに原発事故が同時に進行している。 まさに、20世紀以降で起きた災害でも最大級といってよいのではないだろうか。 2 復旧・復興 復旧については、現行制度を最大限、弾力的に運用し、復興については、法改正や 新規立法で対応してほしい。その準備は、今から始めてほしい。 現行の災害救助法は、規定で現金支給ができるはずなのに、運用では認めていない。 「生業」に対する支援も規定上できるのに、運用では認めていない。いずれも、ただちに改善できる。 今回、「生活再建支援金」として政府は第1次補正予算に520億円を計上した。 これは都道府県の拠出残額500億円に見合う額だが、これではとても足りない。 とりあえず、危機を回避する補修に全力をあげていただきたい。石巻の海岸では、防波堤が決壊 したままで、土地が沈降したため、満潮時に冠水している場所がある。住民は土嚢で浸水を食い 止めている。危ない状態を放置しないでほしい。 3 避難所では、亜急性期から慢性期に入ったのが1ヵ月後。次第に人数は減りつつあるが、仮設は 着工が始まったばかりで、まだまだ足りない。今は、どうやって雇用の場を確保するかが大きな問題 になって いる。気仙沼や石巻では、6月のカツオ漁水揚げを目指して必死の努力をしているが、 見通しは厳しい。 漁港には、造船所、鉄工所、電装、無線修理、エサや物資の補給、冷凍施設、水産加工工場など、 関連施設が集中していたが、沿岸にあったために、すべて津波にさらわれた。 しかし避難所優先のため、水、電気などの復旧が遅れている。 避難所と並んで、水産業の再興が、何よりも先決だ。 4 復興のかなめとなる地域産業の中核になる人々を大事にしてほしい。気仙沼漁協では、津波被害に 伴う業務縮小で、百人の職員の半分を解雇せざるをえない。その人々が散り散りになって しまわないうちに、何とか手を打ってほしい。 5 四川大地震では、20の省と市を被災地に割り振る「対口支援」を行って、大きな成果をあげた。 今回も、昨年12月に発足した「関西広域連合」の2府5県が、すでに相手先を決めて 「対口支援」を実施している。このやり方は支援の重複や支援漏れを防ぐには、とても効果的だ。 何よりも、パートナーを長期に支えることで、絆がうまれ、他人事ではない支援ができる。 困った人を助けるというのではなく、「困ったときはお互いさま」で、次は自分が 支援を受けることになるかもしれない。「支えあい」の気持ちが大切だと思う。 片山さんは、他のゲストの方々と同じく、静かに耳を傾けてくださり、いくつかの点では、メモをとるなど、 熱心だった。ただ、収録後、「対口支援」については、「日本には姉妹都市の提携が活発で、 すでに動き出している。関西広域連合、姉妹都市の動きはそのままにして、 足りない分の職員応援などは、県が調整役になって行っている」とおっしゃった。 中国とは違い、指示されると反発する自治体もあるなど、一律の取り組みは難しい、 と判断されているようだった。 私は他の方々のご発言について、要約できる立場にはないので、特に印象に残ったことをご紹介したい。 〇金子勝さん 歯に衣着せぬ発言で知られる論客だが、番組では進行役とあって、 率直にご発言することは控 えておられたようだ。ただ、復興構想会議が、 「財源論議」に触れた点については、「復旧・復興の見通しが立ってから、どのくらいの予算規模で、 どの財源をあてるか、というのが筋。その将来像を決めないうちに、財源論議をするのは 本末転倒」と直言なさっていたのが印象的だ。 (これは、片山大臣が先月の記者会見で語った発言を念頭に置いたものだろう。、片山氏は会見で、 復興財源として浮上している消費増税や所得増税の議論について、「役人が復興構想会議の 委員たちに『税はこうすべきだ』 と根回しをしているという。政治主導に反し、あってはならないことだ。 税はすぐれて政治の根本にかかわる問題だ。復興構想会議で税制が議論されているのは主客転倒 している」と語ったという) 〇神野直彦さん 今回の震災の特徴は、きわめて広域にわたり、都市だけでなく、 中小の自治体を巻き込んだ点 に、これまでの震災との違いがある。関東大震災のように、 首都が打撃を受け、復興院で首都再建を目指せばそ れでよかったのとは違う。 震災前から「無縁社会」や「格差社会」が問題になっていた。今回の震災で、 地域コミュ ニティの崩壊が加速しかねない。とりわけ、第一次産業は、震災前に 西日本の中山間地で崩れつつあったが、東 北は、まだがんばっていた。 地域に昔から根づいた知恵をいかし、地域の核となる人々の声に耳を傾けたい。 〇片山善博さん 防災や復旧・復興では、市町村が主体となる。その市町村が壊滅的な 打撃を受け、中には 町長がお亡くなりになったところもあった。市町村主体の通常のやり方 が機能しなくなり、原発で役場自体が避難 したところもある。もともと地方が衰退して、 (社会機能を包摂する)インクルーシブな部分を行政がカバーしなくて はならない状態にあった。 自治体にしっかりしていただくという意味で、応援職員を派遣するなど、最大限の力で取り組みたい。 (総務省は、職員応援態勢のほか、域外への避難者のデータベースづくりなどにも取り組んでいる。 私が現地で見た限りでは、他の自治体、自治労の応援態勢がようやく軌道に乗り、被災職員が週に一度、 休めるようになった) 〇両角和夫さん 地元大学で長年教鞭をとり、三陸地方での研究にも長く取り組んでこられた。 震災前から過疎化、少子高齢化、医療過疎などが続いており、その要因をおさえてどう復興していくかが 問題、との指摘をなさった。原発事故に関連して、被災地を自然エネルギーのモデル地区にするなど、 復興に新たなビジョンを加えること が必要だとおっしゃる。具体的に、木炭を使った自動車のシステム 開発など、これまで実際に取り組んできた事例 をご紹介になり、片山さんも興味深く聞いていらした。 写真上から 1 片山善博大臣 2 左から神野、片山、金子さん 3 収録後、スタッフと話すゲスト。右端が両角さん |
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