2011年5月22日(日)記 南相馬市が、三つの相にわかれていることは、何度か述べた。 そのうち、半径20キロ圏内の警戒区域は、立ち入りが禁止されている。 いま注目したいのは、数万人の市民が暮らしながら、さまざまな制限がおこなわれている半径20〜30キロ圏内の「緊急時避難準備区域」である。南相馬市でいうと、役所のある中心部の旧原町市、いまの原町区がそれにあたる。 まず、教育はどうだろうか。青木紀男(としお)教育長にお話をうかがった。 震災前、南相馬市には 半径20キロ圏内にある小高区に 小学校4 中学校2 児童・生徒総数の16〜17% 20〜30キロ圏内にある原町区に 小学校8 中学校4 約68% 30キロ圏外の鹿島区に 小学校4 中学校1 約15% があった。震災・津波による直接被害は、河口付近にあった真野小学校だけだった。 津波が近づくことを警戒し、教員は機転をきかせて児童70数人を車に分乗させた。迎えに来た保護者も同行を促して、約2キロ先の高台に避難し、被害はゼロだった。 中学校は3.11が卒業式にあたり、早めに帰宅した6人が亡くなり、2人が行方不明。小学生も、保護者が迎えにきた9人が津波巻き込まれて亡くなり、4人が行方不明となった。 教員では、見回り出ていた2人が殉職、休みをとって中学生のお子さんの卒業式に出た1人が亡くなった。 4月になって、避難していた市民がぽつぽつ帰り始めた。企業や店舗も従業員を呼び寄せ始め、児童・生徒の保護者も戻ってくる。祖父母が避難先で面倒を見ていればよいが、そうでなければ子どもも一緒、というご家庭がある。妊産婦や子どもの生命が最も大事だが、保護者の勤務などやむをえない事情を抱えた人もいる。 そこで、ふつうは4月6日に入学式・始業式を行うところを、22日まで延期し、準備を整えた。 20キロ圏内の「避難区域」はもちろん、20〜30キロ圏内でも、小中学校は開校できない。子どもは、できるだけ入らないようにと指定された地域にあたるからだ。 そこで、30キロ圏外の鹿島区にある小学校3校、中学校1校に、統合することになった。市建築部が校舎をチェックし、共同下水処理場が壊れていたので、仮設トイレを数十基建て、学校を再開することにした。 もちろん、校舎は足りない。そこで体育館を仕切ったり、複数学校の同じ学年の児童・生徒を統合するかたちで、 授業はじめた。 震災前は、小学生が約4000人 中学生が約2000人だった。 今は 小学生が約1200人 中学生が800〜900人である。 つまり、全児童・生徒総数の3分の1、約2000人での再スタートとなった。 「緊急時避難準備区域」の原町区では、毎朝8つの小学校、4つの中学校で午前7時集合、7時10分発の「早組」スクール・バス18台が、子どもたちを学校まで運ぶ。そのバスが再び戻り、8時集合、8時10分発の「遅組」バスとなって、別の子どもを運ぶ。夕方も同じような2組編成で子どもたちを送り返す。 一方、北の相馬市に避難している子もいるので、そちらにも相馬駅前に2台のスクール・バスを派遣しているという。 今は、校庭に2階建て仮設校舎2棟を建てるよう、県に要請している。それぞれ17教室、計34教室を確保できる 見通しだ。 「問題は、それまでをどうしのぐか、です。体育館は照明が暗く、冷暖房もない。これから暑くなる季節をどうしのぐか。心もケアの問題も、考えていかねばならない」と、青木教育長はいう。 高校は、「警戒区域」には2校、「緊急時避難準備区域」に公立が2校、市立が1校あった。今は、相馬市のサテライト校に県がバスを出し、5月9日から、通学1時間弱をかけて通っているという。 関係者のご苦労には頭がさがる。ここまで苦労しても、まず次世代の教育を大切にする、という熱意が、このシステムを支えているのだ。 しかし、その一方、ふと疑問も感じてしまう。子どもたちは、いろいろな事情で緊急時避難準備区域の親元で過ごさざるを得ないのが現実だ。政府が定義した「危ない地域」に住み、政府がいう「比較的安全な地域」の学校に通う。 そこには、「安全性」の建前と、暮らしの「現実」の分裂があるのではないだろうか。 政府は半径20〜30キロ圏内で「屋内退避」を指示した。しかし、食糧やガソリンの配給といった物流の確保には、ほとんど努力の形跡が見られない。「自主避難」を要請しながら、その手立てや十分な支援をしたとも思えない。「緊急時避難準備区域」と指定したあとも、「安全」という建前だけを押しつけ、その暮らしの不便さを補うことをしていないのではないか。 南相馬市で、そんなこと考えた。 写真は 青木紀男・教育長。部屋には、被災地域と学校の所在地を書き込んだ地図がはられている。 |
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